昔のタモリさんが意外すぎる

2015/11/30 2023/05/19

タモリさんといえば物知りで控えめな人。そのイメージとは真逆の「昔のタモリさん」をご存知でしょうか？この記事ではタモリさんの生い立ちやルーツを探ります。

この記事ではタモリさんの大学中退後からの道程をたどりますが、幼いころにもご関心があれば以下の記事を先にお読みくださると理解が深まります。

タモリさんは集団安全保障についてどう考えていたのだろうか？〜高低差と傾斜の思想〜

※松山在住のＤＪミズモトアキラさんによるトークショー「タモリさんについて知っていることを話そうｉｎ新潟」に行ってきました。この記事はその取材に基づいた記事です。

・「タモリさんについて知っていることを話そう」は今後も開催されるため、内容のさわりをご紹介しています。実際にはトーク以外に貴重なＤＶＤの放映やレコード盤の演奏があります。

・ミズモトアキラさんは毎回話を変えているとのことで、この記事をご覧になっても今後開催の「タモリさんについて……」を楽しむことができます。

・引用過多にならないよう情報を付加しています。

昔のタモリさんが意外すぎる〜ルーツ・生い立ち・ジャズな人〜（新潟出張取材）

新潟駅や会場の様子

新潟駅は、旧国鉄駅によくある市の中心から離れた駅です。新設された２両編成のＢＲＴ（快速大量輸送バス）で、中心部の「古町」に移動します。観光客にとって「古町」へのバスが分かりにくかった点解消し旅の楽しみとなりますが、巨額の費用を要し地元では賛否が分かれているとのことです。

新潟名物の「たれカツ丼」です。「ちゃぶぜん新潟店」は駅万代口のバス乗り場に近く便利。この立地で、７７０円でたれカツ丼を提供しているのは良心的です（たれ少なめ肉質重視系）。

・駅前だと「ヒロ」の評判が良いですが、満席で入れず。
・帰りに乗ったタクシー運転手さんは４店しかない「政ちゃん」を勧めていました。ほかの「政」がつく店は暖簾分けとのこと。
・駅近くのラーメン屋は「➡三吉屋（別サイトリンク）」が鉄板ですが、若い人は駅構内にできた「しゃがら」（味濃いめ）にも通っています。

「タモリさんについて知っていることを話そうｉｎ新潟」会場のブルーカフェは２階にありました。古町の少し手前の「本町」バス停下車です。

現在と昔のタモリさんのイメージのギャップについて

昨年「笑っていいとも」が終了した直後のアンケート調査によると、タモリさんのイメージは次のようになっていたそうです。

・ものわかりのいい物知りの素敵なおじさん
・あまり前面に出ない控えめな人

ネット上には「どこが面白いのか謎」という若い人の書き込みもあるようです。これは若い人がタモリさんの自称「濡れたしめじ時代」をご存じないことから来ています。

いいともの最終回（グランドフィナーレ感謝の超特大号）でタモリさんは以下のようにコメントしています。

みなさまのおかげで、本当にここまで来ることができました。

まあ、考えてみれば、気持ち悪い男でしてね。こういう番組で以前の私の姿を見るの、大嫌いなんですよね。なんかこう、気持ち悪い。濡れたしめじみたいな。嫌ーな、ぬめーっとした感じで。

（中略）それがどうしたわけか、初代の、亡くなられました横澤プロデューサーから仰せつかりまして。まあ、だいたい３ヶ月か半年くらいで終わるんじゃないかって思っていたところが、（笑っていいともの放映は）３２年になりました。

タモリさん得意の上げ下げトーク構成のため、多分に大げさに話されていますが、ご本人が「濡れたしめじ」あるいは「いまでいうと江頭2：50」（※）と仰っている時代があったわけです。

※笑っていいとも２００９年２月５日：ゲスト徳光和夫

※「上げ下げトーク」の例は「流れるような司会、仲間内だけの笑いによる祝辞と、非常にスムーズななかにも、慣れ合った嫌な雰囲気の結婚式を堪能させていただいております」。詳細：偽善者であるタモリさんがめざすもの。

タモリさんを世界記憶遺産に

ヨルタモリ.jpではタモリファンの多くがご存知のことも説明をはしょらないようにしています。若い方がタモリさんに関心を持っても、用語（ハナモゲラ語など）が注釈なく使われておりとっつきにくいのが現状です。

「分からない人には分からなくて良い」というご意見も頂きます。しかし、もはやＢＩＧ３でなくＢＩＧ１であることが明らかになってきたタモリさんを、リアルに見た世代だけで独占するのはもったいない気がします。

※実際のユネスコ記憶遺産は有形物が対象です。

また詳しい方には有名な話も多く入っていますのでご容赦ください。

タモリさんの生い立ち　昔、福岡で「濡れたしめじ」を育てていたころ

タモリさんは、ご高尚の通り早稲田大学第二文学部西洋哲学専修を除籍になり、福岡で保険会社勤務、ボーリング場の支配人（大分）、バーテンダーをされておりました。

東京進出の転機になったのはよく知られている「伝説の一夜」です。

伝説の一夜の登場人物、山下洋輔（やましたようすけ）氏はジャズピアニストです。ジャズはロックが普及する前には若者文化の中心であったジャンルです。そしてジャズは「よく分からない」「たるい」と思っている若い方もフリージャズを聴くと考え方が変わるでしょう。

ジャズにはコード進行しか決まっていないアドリブ（即興演奏）の部分があり、もともと「フリー」な面があります。しかしフリージャズは、いかなる西洋音楽のルールにも従わないという理念があり、お互いの演奏をあまり聞かずに個々に演奏することがあるぐらいエキサイティングなものです。このフリージャズは全共闘運動（日本史上最大の学生運動）とも結びつきました。SEALDsがラップを使っているのと似たようなものです。

※全編は[DVD] 田原総一朗の遺言～タブーに挑んだ50年!未来への対話～に収録されています。引用は著作権法第３２条第１項批評・研究に基づきますが、著作権者様のご意向があれば即削除いたします。お問い合わせ先

１９６９年頃山下洋輔氏らは早大構内（会場は１０号館？）でゲリラライブを敢行しました。しかしこの時期にタモリさんはすでに福岡に帰省していました。

しかしタモリさんは間もなく山下洋輔氏と出会います。現在タモリさんが「Jazzな人」という場合には、山下洋輔氏のフリージャズの思想ややはり間もなく出会う赤塚不二夫氏の人間性もベースになっているのでしょう。

赤塚不二夫さんに贈った弔辞からです。

あなたの考えは、全ての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れることです。それによって人間は重苦しい陰の世界から解放され、軽やかになり、また時間は前後関係を断ち放たれて、その時その場が異様に明るく感じられます。この考えをあなたは見事に一言で言い表しています。すなわち「これでいいのだ。」と。

「Jazzな人」には様々な意味がありまとめるのは適切ではありませんが、若い方が理解の起点とするために簡単に言えば、因果律や（西洋が得意な）合理性、整合性からの離脱をイメージさせるかもしれません。因果律、合理性、整合性の背後にはキリスト教があります。タモリさんは中学生の頃平尾バプテスト教会に通い、いまでも牧師さんのまねをされますが、強くは影響されていないようです。

ちょっと高度ですがフェイスブック「ヨルタモリ」（ヨルタモリとブラタモリとなかまたちに改称予定）に頂いたコメントをシェアいたします。

僕個人はヨルタモリにおけるジャズであるか否かという命題に関してはとても奥深く崇高なものを感じております。それは例えばポリリズム的なビートのゆらぎであったり、例えばヒップホップ的なフロウの回し方であったりたとか、あくまでも芸事に対するその一つのスタイルから派生するものではないか、ということなのです。

※ポリリズムとは二つの拍が同居するジャズ特有の進行を指します。

若い方はPerfumeの「ポリリズム」を思い起こされるはずです。この楽曲はポリリズムを多用しているわけではありませんが、１：３５からの間奏はポリリズムとなります。

さて、１９７２年、山下洋輔氏ら一行は、演奏旅行で福岡のタカクラホテルに宿泊していました。

出典：楽天トラベル（画像クリック可）

山下洋輔氏ら３０歳前後の３人はタカクラホテルの一室で、まるでフリージャズのセッションのようにデタラメな長唄を唄い盛り上がっていました（今で言うと地方遠征したロックバンドが騒いでいる感じになります）。そのとき廊下を通りかかったのが森田青年でした。面白そう。そう思った森田青年は空いていたドアから室内に入り「ヨオー」などとかけ声を上げながら近づいていきます。

すると最年少の中村誠一氏が立ち上がり、無礼な？森田青年をデタラメな朝鮮語でまくしたてます。すると森田青年は余裕しゃくしゃくの反撃。中村氏は中国語、ドイツ語、イタリア語、フランス語、英語の全ての武器を順に繰り出しましたが、いずれも森田青年にいとも簡単に迎撃されました。

最年長の山下洋輔氏が大笑いしているなか、名を聞かれた青年は「森田です」とだけ名乗って部屋を出ています。

※このくだりを詳しくお読みになりたい方は➡タモリと戦後ニッポン [ 近藤正高 ]の１３０~１３１頁にあります。

さて、新宿コマ劇場の裏に、山下洋輔氏のマネージャーの母親が開いた店を継承した「ジャックの豆の木」なるスナックがありました（ジャックと、でなくジャックのです）。面白いことが好きな連中が集まっていた「ジャックの豆の木」では、すでにお互いにネタを出し尽くし閉塞感が漂っていました。笑いを取るためにラー油を体に塗り過ぎ病院送りになったメンツもおり、これ以上はもう「おしっこを飲むか死ぬしかない」という話になっていました。

１９７５年のことであり、新幹線が博多開業を迎えた年です。

ブラタモリの福岡の回では次のようにアナウンスされました。「タモリさんが上京したのは新幹線が開業した年。芸能界入りを目指すタモリさんは、開業したばかりの０系の新幹線で上京しました。１９７５年（昭和５０年）のことでした」

「ジャックの豆の木」ではカンパが募られタモリさんは久しぶりに上京を果たします。今度は学生としてではなく喋りで生きていくしかないという一大決心を抱えながら。すると小説家の筒井康隆さんや赤塚不二夫さんらが顔を出し……。

赤塚不二夫さんに贈った弔辞からです。

１０代の終わりから、我々の青春は赤塚不二夫一色でした。何年か過ぎ、私がお笑いの世界を目指して九州から上京して、歌舞伎町の裏の小さなバーでライヴみたいなことをやっていたときに、あなたは突然、私の眼前に現われました。

タモリさんが演じたのは、ニセ外国語、NHK教育テレビのパロディ「陶器の変遷」「音楽の変遷」、「アメリカの宇宙飛行士と中国の宇宙飛行士の絡み合い」、ストリップなどマニアックな密室芸でした。

いまのタモリさんのイメージ「ものわかりのいい物知りの素敵なおじさん」「あまり前面に出ない控えめな人」からは想像もつかない熱い一夜でした。

修行期間のない芸人タモリさんの唯一の修行

たけしさんやさんまさんと異なり、タモリさんには修行期間がないことがひとつの特徴とされています。しかしトークショー「タモリさんについて知っていることを話そう」のＤＪミズモトアキラさんは、スナック「ジャックの豆の木」での日々が唯一の修行期間ではなかったかと指摘されていました。

動画撮影やユーチューブがない時代、「ジャックの豆の木」の様子はもう知ることができません。しかしタモリさんの番組『今夜は最高』のなかで「ジャックの豆の木」の様子が再現されたことがあるそうです。

セットは、移転して初代の３分の１くらいの広さになり「小さなジャック」とも言われた手狭なスナックです。そこにタモリさんが仕立ての良い服で登場します（当時実際のタモリさんは赤塚不二夫さんの服を事後承諾で勝手に着ていたのです）。

すると先客がいます。タモリさんは先客に「馬淵モータ社長小卒の叩き上げ。叩き上げといっても鯵じゃないヨ」と自己紹介します。するとカウンターで隣り合った客が「上智仏文を出た土建屋だ」と自己紹介します。馬淵モータ社長（＝タモリさん）は、ワシも確かに小卒じゃけんど、土建と仏文がどう関係あんのか？と議論を仕掛けます。すると「上智仏文を出た土建屋」は猛反論……。このようなジャズセッションのような駆け引きが続きます。

ＤＪミズモトアキラさんはこれを「思想模写」だと説明します。物まねというよりはある人格になり切ってその人の思考や発言をただａｃｔするだけという意味です。

※　※　※

トークショー「タモリさんについて知っていることを話そう」の次回は、次のようになっています。

11/20（金）タモリさんについて知っていることを話そう。in 福岡＠ブックスキューブリック箱崎店
 11/22（日）タモリさんについて知っていることを話そう。in 熊本＠onthebooks
12/05（土）タモリさんについて知っていることを話そう。in 札幌＠revolver
12/07（月）タモリさんについて知っていることを話そう。in 別海＠oncafe

なお参加された方からのレポートをお待ちしています。もしも原稿仕立てにして頂ければ、このサイトで紹介の上薄謝として東京名産品を進呈いたします（ヨルタモリ.jpへの問い合わせ）。

※　※　※

出典：フジテレビ「ヨルタモリ」

「ヨルタモリ」でも思想模写がたくさん登場しています。そもそも来店客の吉原さんも思想模写に近い形です。一ノ関のジャズ喫茶「ベイシー」の店主がモデルになっています。

詳細➡タモリ「物知りに見えるコツ」を佐藤隆太に指南……ヨルタモリ2014.11.30

ミズモトさんが東北の方に聞いたところ「東北人がはじめて東京に出て標準語を覚えようとしている時期にそっくり」と大絶賛だったそうです。

出典：フジテレビ「ヨルタモリ」

燕三条市から来た公務員の吉村勇さんです。タモリさんはたとえ実在しない人物でも、それらしく設定して思想模写をすることもできます。この「吉村勇」さんは、さらに実在しない「子役タレント岩崎伸之君」「映画評論家池田道夫」などを思想模写するのですからたいしたものです。

※燕三条市は実在しません。

タモリとコロッケのものまねを比較　タモリ式に見る「奇跡の構造」とは？

修行期間のない芸人タモリさんの唯一の修行は、思想模写がひとつのキーワードになっていたようです。

※思想模写とは少し違いますが、タモリさんが明かした作家・寺山修二の物まねする時のコツをＤＪミズモトアキラさんが紹介されていました。知る人ぞ知るタモリさんの「のぞき騒動」（実際には無罪ですよ）も絡む大変興味深い内容でしたが、引用過多になりますので「タモリさんについて知っていることを話そう」に譲ります。

昔のタモリさん　もしＢＰＯがあったら

タモリさんのテレビ初出演は１９７５年８月。ＮＥＴ（現テレ朝）の「土曜ショー」で、内容は赤塚不二夫さんのまんがを生かした即興ショーやいくつかの密室芸（４か国語ゲーム〜麻雀ではないです）でした。

お昼ということもありまともな内容でしたが、アーリー・イヤーズのタモリさんはまだまだ密室芸がメインです。１９８２年８月の２４時間テレビ「愛は地球を救う」の深夜企画「正気の沙汰でナイト」（「今夜は最低」説も）では、赤塚不二夫とタモリによる「SM鞭打ち合戦」が披露されました。やはりかなり問題になったようですが、表向きディレクターを叱責した編成局長は「いつか昼間でやってみたいね」と冗談とも本気ともつかぬフォローをしたそうです。

最近もテレビ東京の深夜番組「ざっくりハイタッチ」で芸人が裸になってＢＰＯ審議入りしましたが、ますます事なかれ主義がテレビ業界に蔓延している気がします。

裸芸人おむつでＢＰＯ審議入り　出演者は誰で内容は？放送の是非を問う（外部サイト）

いずれにしても「SM鞭打ち合戦」はいいとも開始前のタモリさんの最後のイタズラとして記憶しておきたいです。

「笑っていいとも」では安全運転のタモリさんだが

２４時間テレビが大騒動になった１９８２年の１０月４日に笑っていいともが始まります。

しかしタモリさんが密室芸を完全に封印したわけではなく。例えば１９８６年の「いいとも！」に出演した超本格派ラッパーRUN-DMCの番組内ミニライブにタモリさんは参戦しています。

タモリさんはRUN-DMCから見て外国語となる言語でセッションをしたいと考えたようです。しかし、日本語のラップではリズム的に厳しい。それで中国語をセレクトしたようです（もちろんニセモノ）。

出典：フジテレビ「ヨルタモリ」

そしていいともが終了したあとの２０１５年１０月。「ヨルタモリ」内の「世界の音楽旅行」でリップ・スライムのライブが始まります。するとRUN-DMCのときと同じようにどこからともなくタモリさんが参戦します。このときも中国語でした。そして驚いたことにこの中国語は約３０年前のRUN-DMCとのセッションと同じ歌いだしだったそうです！

李澤教授の百人一首第１回に井上陽水も爆笑……ヨルタモリ2014.10.25 No.2

若い人とそうでない人の間にイメージの大きなギャップがあるタモリさん。齢を重ねるにつれて大きく変わってしまったのかなと思われがちです。

しかし、福岡の坂の中腹の自宅の前で幼稚園に行かず道行く人を観察し子どもながらに「思想模写」していたタモリさん、そして中国語のラジオを食い入るように聴いていた少年の頃のタモリさん。タモリさんはずっとタモリさんのままなのです。

※　※　※