偽善者であるタモリさんがめざすもの

2014/12/31 2023/05/19

タモリさんがいつもスーツにネクタイを締めている理由をご存知でしょうか？デビューして４、５年目に事務所田辺エージェンシー社長から、お笑いの人間は汚く見えることがあるからキチンとした服装をしろと注意されたのがきっかけです。この服装もタモリさんの偽善のひとつです。

偽善者であるタモリさんがめざすもの

偽善教育がめざすもの

タモリさんは２００４年頃糸井重里氏との対談で「偽善教育っていうのは、やっぱり、小学生の頃から必要だね」と持論を述べています。例えば「おはよう」という挨拶はもはや「……うわぁ、早いですね！」という意味内容を失っており、様式美すなわち偽善だというのです。

これは言い換えれば「礼儀」ということですが、タモリさんは「礼儀」というオブラートに包んだような言葉が若い人の反発を買うのだと考えています。

いま中学や高等学校では生徒に「礼儀」を教えるのに苦労しています。家庭や地域の状況によりますが、礼儀の大切さをあまり把握していない状況で、「礼儀」を覚えなさいと説教しても反発を引き出すだけだからです。彼らの年代にとって最も価値があるのは同年代との友達の仲です。それを守るために１時間に何度もＬＩＮＥのメッセージを確認しています。

そんな彼らが最も重んじる規範は「本音」であり「正直」であることです。形式的であり本心を問わず型を押しつけられる「礼儀」は、彼らの最高価値である本音・正直に反するのですから受け入れられるはずがありません。

そのため一部の中学や高校では、指導の工夫として劇団を呼んでいます（上の写真）。礼儀が伴った生徒が礼儀を知らない生徒に理解を示しながら諭していくような演劇を通じ、礼儀の浸透を図っているのです。

しかしタモリさんが先生なら、君たちが言う本音や正直が重要なのは分かっている。曲げる必要はない。ただ安全な人付き合いをするために「偽善」を覚えれば簡単だ、と諭すはずです。

タモリ偽善教育っていうのは、やっぱり、小学生の頃から必要だね。

糸井早い話が、様式でどれだけ救われるかって話ですからね。

タモリそうそう、様式でどれだけ救われるかってこと。

糸井「おはよう」って言えるか言えないかっていうのは、何の意味もなさそうだけど、「あいさつ」って、意外に大きいですよねぇ？

タモリええ、「おはよう」も様式です。

出典：偽善教育のススメ

行き過ぎた偽善には頭突きをするタモリさん

出典：フジテレビ「ヨルタモリ」

タモリさんが偽善を重んじるというと違和感を持つ方もいらっしゃるかもしれません。

一つは「名古屋批判」や「さだまさし批判」です。偽善を標榜するならこのような批判は出てこないはずです。しかしネタとしての「名古屋批判」「さだまさし批判」はあるベテランフォーク歌手から注意されて以来封印しており、１９８０年代までの話です。

もう一つは２００５年のフジテレビ梅津弥英子アナの結婚披露宴で大暴れした件でしょうか。

糸井：確かに「ネクタイ締めてればオッケー」みたいなところは、タモリさん、じょうずですよね。これほどネクタイをじょうずに使っているタレントはいない。

タモリ： そこらへんは、偽善がうまい。

糸井: 様式は、やっぱり、人を助けますねぇ。

タモリ: すべてが、様式ですから……。

出典：もっと、偽善をしよう

前年にこのようなトークをしているはずのタモリさんは披露宴に何と「船長」の服装で出席。明らかに奇異な服装でしたが、乾杯の音頭のなかで「船出を祝う」とうまく解釈させます。

出典：フジテレビ「ＦＮＳ２７時間テレビ」

しかしその後「流れるような司会、仲間内だけの笑いによる祝辞と、非常にスムーズななかにも、慣れ合った嫌な雰囲気の結婚式を堪能させていただいております」と迷走を開始。席に戻った後は明らかに飲み過ぎ、新郎友人のアメフト部のスピーチ中に不満があったのか乱入し、タックルを試み会場は騒然。その後花嫁のブーケをくじ引きで千野志摩アナが引いたことを出来レースだと感じたのか、千野アナにもタックル。再度会場は騒然とします。

この出来事は「そこらへんは、偽善がうまい」というタモリさん本人の談と正反対と感じるかもしれませんが、酒に酔ったことで普段抑圧している「悪」が解放されたのでしょう。

千野アナが披露宴の席上、新婦に子供ができたということ「天使が舞い降りてきました」と発言したことに、タモリさんはパンを投げて「厳重抗議」しています。一介のアナウンサーの子どもを「天使」と臆面もなく表現するような行き過ぎた「偽善」に憤慨したのでしょう。

必要な程度の最小限の偽善は人間関係の潤滑油だと考えるタモリさんも、日常的に大げさに褒めたたえあうような偽りの人間関係は好まないのかもしれません。芸能人仲間が自宅に来ると喜ばせるためにずっと料理を作っているような実質本位の関係とは対照的ということでしょうか。

最近の記事　➡タモリさんは集団安全保障についてどう考えていたのだろうか？〜高低差と傾斜の思想〜

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礼儀が廃れつつあるTOKYOに偽善を

現在TOKYOでは礼儀の習慣が廃れてしまっています。雑踏でぶつかっても誤らない。電車では降りる人を待たずにわれ先に乗車する。TOKYO人は「偽善」を見直すことが必要でしょう。

偽善ができないNUMADUの人

タモリさんがヨット関係などで第二の故郷としている沼津。東海道のイメージが強いですが、地域上は東部・伊豆地方に分類され県内でもっとも人情に厚い地区だとされます。

出張ついでに沼津港を訪ねた際、ある飲食店を訪ねました。この店は土曜や休日だけ海の見える２階席を開放しているようです。土産物店を兼ねており、前の客の対応に時間がかかり１０分待ち。ようやく順番が来たものの調理ができないスタッフのようで更に１０分待ち。この間「お待たせしてすいません」の一言もありません。生粋のTOKYO人ならなんてサービスが悪いと帰ってしまうところです。

しかし私はNUMADUの人が「偽善」の習慣を持っていないことを知っていたので黙って待ちました。そして順番が来たとき、平日だが二階を使いたいと頼み込みました。店員は迷わず「構いませんよ」と言ってくれました。NUMADUの人は旅行者にはちょっと冷たいような感じがしますが、頼み事はまず引き受けてくれるのです。

大勢の人が行きかうなかではタモリさんの提唱する「偽善」が最善の策なのでしょう。しかし地方では偽善がいらないような関係も残っています。日本には山があり海があり様々な文化があり、これが日本の面白いところだと感じます。